AI活用セミナーに出た担当の方から、商談でほぼ同じ言葉を聞きます。「面白かったし、よく分かった。ただ、自社に戻したら何から手を付ければいいのか分からない」。

セミナーの質が低かったわけではありません。他社の事例は、うまくいった後ろから語られるからです。話す側は結果を見せますが、その結果が成り立っていた条件までは、限られた登壇時間には収まりません。

事例への需要は、数字で確かめられます。中小企業基盤整備機構の実態調査(2026年3月・図表9)では、AI導入を推進するために必要な公的支援として「導入事例などの情報提供」を必要と答えた中小企業が70.5%(n=1,594)でした。「導入費用などの助成」(77.9%・n=1,628)に次ぐ2番目です。

だとすれば、問題は事例の数ではありません。持ち帰った1件を自社で動かすときに、何が写っていなかったかです。

この記事の要点は3つ

  1. AI活用セミナーの事例には、3つのことが書かれていません。その会社のAIに渡してあった前提、それを実際に回している担い手、出力のあとに残る工程の3つです
  2. 空いている場所ごとに、止まり方が違います。前提が無ければ返ってくるのは一般論、担い手がいなければ推進担当の手元で止まり、工程が古いままなら初稿だけが速くなって完成日は動きません
  3. 埋める順番は、申し込む前から始まっています。移す先の業務を1つ指名し、その業務を毎日やっている人を出席者に入れる。この2つが済んでいれば、当日に確かめる質問が自分で立ちます
型A・全体像カード型。AI活用セミナーで持ち帰った事例と、自社のあいだに残る3つの空白をカードで並べる。要素=カード1「前提」=事例の会社のAIには、社内の判断基準と用語が渡してある。自社のAIは何も知らない。カード2「担い手」=事例を作ったのは、その業務を毎日やっている人。セミナーに出るのは推進担当であることが多い。カード3「工程」=事例が見せるのは出力まで。確認と承認の工程は自社に残る。3枚のカードを横に並べ、下部に「1つ空いているだけで、その事例は再現しない」の帯を置く。結論=持ち帰った事例と自社のあいだには、前提・担い手・工程の3つの空白が残ります。

持ち帰った事例と自社のあいだには、前提・担い手・工程の3つの空白が残ります。

自社の業務を題材にしたときにどこまで届くかを30分で確かめたい方は、初回無料体験講座(無料・30分)を申し込むからご利用ください。

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なお、この記事の「3つの空白」は、当社が組織展開の課題として整理している「展開の4つの壁」のうち、セミナーの持ち帰りで効く3つを並べ替えたものです。業界の標準的な分類ではありません。順位や採点ではなく、いま止まっている場所を1つに絞る道具として使ってください。

どのAI活用セミナーに申し込むかを決める段階の方は、AIセミナーの選び方|無料と有料の前に見る3つの基準を先にお読みください。そちらが主催者と設計の見分け方を扱い、この記事は、申し込んだあと・出たあとに自社で何をするかを扱います。

この記事でわかること

  • AI活用セミナーに事例を求める需要が、公的支援のニーズの中でどこに位置しているか
  • 他社の事例が「うまくいった後ろから語られる」とはどういうことか
  • 持ち帰った事例と自社のあいだに残る3つの空白(前提・担い手・工程)
  • 前提が空いていると、同じ指示を出しても一般論しか返ってこない理由
  • 前提を人の頭ではなくAIが読める場所に置く、という考え方
  • 使い始めた会社ほど「ノウハウが偏る」「業務プロセスに組み込めず定着しない」を課題に挙げる実態
  • 申し込む前に決めておく1つと、出席者に必ず入れる人
  • 当日に書き留めるものを、事例名から「成り立っていた条件」に変える方法
  • AI活用セミナーの中では埋まらない空白と、その持っていき先

目次

  1. AI活用セミナーに人が集まる理由|足りていないのは情報ではなく、移し方です
  2. AI活用セミナーの事例が自社で動かない3つの空白|前提・担い手・工程
  3. 空白①前提|事例のAIは、その会社を知っている状態で動いている
  4. 空白②担い手|事例を作ったのは、その業務を毎日やっている人です
  5. 空白③工程|事例が見せているのは出力までです
  6. 申し込む前に決める1つ|移す先の業務を先に指名する
  7. 当日に書き留めるもの|事例名ではなく、成り立っていた条件
  8. セミナーで埋まらない空白
  9. AI活用セミナーに関するよくある質問
  10. AI活用セミナーの3つの空白|総括表
  11. あわせて読みたい
  12. まとめ|AI活用セミナーは、持ち帰った事例の数では進みません

AI活用セミナーに人が集まる理由|足りていないのは情報ではなく、移し方です

AI活用セミナーの募集ページを並べると、掲げられているものはほとんど同じです。他社がどの業務にAIを使い、どれだけ短くなったか。参加する側も、そこを見て申し込みます。

需要は実在します。冒頭で引いた中小企業基盤整備機構の実態調査で、公的支援として求められるものの1位は費用の助成、2位が事例の情報提供でした。費用の次に不足しているのが、事例の情報という並びです。

求められているのは、費用の助成に次いで「事例の情報」

この順番には意味があります。お金は制度で埋められますが、事例は制度では配れません。

だから情報として求められ、AI活用セミナーがその受け皿になります。ここまでは自然な流れです。

ずれが出るのはその先です。事例の情報が増えても、自社で動く業務は自動的には増えません。

情報の不足と、移し方の不足は別の欠品だからです。前者は読めば埋まりますが、後者は読んでも埋まりません。

事例は、うまくいった後ろから語られます

登壇者が話すのは、動いている状態の説明です。どの業務に使い、何が短くなり、社内でどう広がったか。聞いている側には完成した形だけが届きます。

ところが、その完成形にたどり着くまでに、その会社は必ず手前の作業をしています。AIに自社のことを教える、その業務の当人が触る、確認と承認の順番を組み替える。

この手前の作業は、成果として語りにくいので省かれます。 悪意ではなく、時間の都合です。

つまり、聞いた側が悪いのでも、話した側が隠したのでもありません。事例という形式が、手前を落とすのです。


AI活用セミナーの事例が自社で動かない3つの空白|前提・担い手・工程

AI活用セミナーで持ち帰った事例を自社で試そうとしたとき、止まる場所は3つに分かれます。前提・担い手・工程です。

空白

事例の会社では

自社に戻すと起きること

①前提

AIが社内の判断基準と用語を渡されている

同じ指示を出しても、一般論しか返ってこない

②担い手

その業務を毎日やっている人が動かしている

推進担当の手元で止まり、現場に渡らない

③工程

確認と承認の順番が組み替えられている

初稿だけが速くなり、完成日が変わらない

3つは独立していて、順番に起きるわけでもありません。どれか1つ空いているだけで、その事例は再現しません。

いま自社がどこで止まっているかは、次の3問で切り分けられます。

  • ①前提 — AIが出した文章に、社内でしか通じない言葉や判断が入っていますか
  • ②担い手 — その業務を毎日やっている人が、実際に自分の画面で触りましたか
  • ③工程 — 出力のあとの確認と承認を、以前から変えましたか

はいと答えられなかった番号が、いま空いている場所です。2つ以上に当たった場合は、番号の小さいほうから埋めてください。

この3つは、当社の「展開の4つの壁」から取り出したものです

念のため書いておくと、この3分類は公的機関や業界団体が定めたものではありません。当社が組織展開の課題として整理している「展開の4つの壁」から、セミナーの持ち帰りで効く3つを取り出し、参加する側が触れる順に並べ替えたものです。新しい枠組みではありません。


空白①前提|事例のAIは、その会社を知っている状態で動いている

AI活用セミナーで見た事例のAIは、その会社のことを知っている状態で動いています。何を大事にしている会社か、社内で使われている言葉が何を指すか、どの判断は誰が持っているか。これらが渡してあるから、返ってくるものが「その会社のもの」になります。

聞いている側には、この部分が見えません。画面に映るのは指示と出力だけで、指示より手前に何が積んであるかは映らないからです。

型C・帯構造型。事例の会社のAIに、あらかじめ渡されているものを3段に積む。要素=上段「会社の判断基準」=何を優先し、どこからは人が決めるかの線引き。中段「業務の用語」=社内でしか通じない略称・帳票名・工程の呼び方。下段「過去のやり方」=これまでどう書いてきたか、どの形で承認されてきたか。各段の左に白抜きラベル、右に説明枠を置き、上段「会社の判断基準」だけを濃い青で塗る。3段の下に薄い台座として「この上に、当日見えている指示と出力が乗っている」を敷く。結論=事例のAIは、その会社の判断基準を渡された状態で動いています。

事例のAIは、その会社の判断基準を渡された状態で動いています。

同じ指示を自社で出すと、返ってくるのは一般論です

セミナーで配られた指示文をそのまま自社で試すと、たいてい教科書のような答えが返ります。文章としては整っているのに、自社のものではない。ここで「うちには合わなかった」と判断されて、試行が1回で終わります。

合わなかったのではなく、AIが自社を知らないまま答えているだけです。当社の言い方では、ここが4つの壁の2つ目「コンテキストの壁」に当たります。

答えは整っているのに「うちの会社のもの」にならず、誰もが毎回ゼロから前提を説明し直している状態です。4つの壁の全体と、セミナーで越えられる壁・越えられない壁の表はAIセミナーの選び方|無料と有料の前に見る3つの基準に載せています。

この見分け方は簡単です。返ってきた文章から会社名と商品名を消して、他社に渡せてしまうなら、前提が空いています。

前提は、人の頭ではなくAIが読める場所に置きます

埋め方は、毎回のチャットに背景を書き足すことではありません。それでは書いた人しか使えず、その人が忙しくなった時点で止まります。

やることは、会社の方針・用語・判断基準を、AIが参照できる共有の置き場にまとめることです。DAIJOBUの法人研修では、ここを組織で使うための中心に置いています。誰が開いても、AIが自社の前提を分かっている状態にするのが目的です。

最初から網羅する必要はありません。移す先に決めた業務の周りだけで足ります。その業務で毎回説明している3行を書き出すところから始めれば、初回の出力の当たり方が変わります。


空白②担い手|事例を作ったのは、その業務を毎日やっている人です

AI活用セミナーで語られる事例は、ほぼ例外なくその業務の当人が作っています。毎週その帳票を書いている人、毎日その問い合わせに答えている人。うまくいく形を見つけられるのは、どこが面倒かを体で知っている人だからです。

一方、セミナーに出席するのは推進担当や情報システムの方が多くなります。事例を見る人と、事例を作れる人が別という状態が、申し込みの時点で生まれています。

型B・対比型。事例を作った人と、セミナーに出席した人を左右に並べる。要素=右(事例を作った人)=①その業務を毎日やっている②どこが面倒かを体で知っている③出てきた答えの良し悪しをその場で判定できる④直す理由を自分で持っている。左(セミナーに出席した人)=①業務の外から見ている②面倒の在り処を人から聞いている③出てきた答えを評価できる相手を探すところから始まる④直す理由を現場から借りてくる。右側を青で強く。結論=事例を作ったのは、その業務を毎日やっている当人です。

事例を作ったのは、その業務を毎日やっている当人です。

使い始めた会社ほど「ノウハウが偏る」を課題に挙げます

この構図は、統計にも出ています。商工中金の調査(2026年1月調査・同調査 p.10)は、生成AIの課題を「積極活用層」と「積極活用層以外」に分けて集計しています。

「一部部署や職員に知識・ノウハウが偏る」を挙げた割合は、積極活用層で24.7%(n=1,144)、積極活用層以外で10.2%(n=2,522)でした。

注意して読むところがあります。この項目は、使っていない層より、使い始めた層のほうが高いという逆転になっています。

つまり偏りは、AIが社内に入ってから見えてくる課題です。事例を集めている段階では、まだ問題として立ち上がっていません。

AI活用セミナーに1人だけ出席して持ち帰る形は、この偏りを最初から作ります。詳しい人が1人育ち、質問も作業もその人に集中する。事例が増えても、担い手は1人のままです。

当社が席の並びを業務の近さで決めている理由

DAIJOBUの個社開催の研修では、業務内容が近い人を同じグループにすると進み方が変わります。階層で分けるより、扱っている書類と締め切りが同じ人をまとめたほうが、演習の題材がそのまま全員の題材になるからです。

これは「現場だけ集めろ」という話ではありません。決める人と、毎日その業務を触っている人が、同じ題材を見ている状態を作るのが要点です。片方だけだと、決まっても動かないか、動いても広がらないかのどちらかになります。

外部のAI活用セミナーでも、この考え方はそのまま使えます。1人で行くなら、移す先の業務を自分が毎日やっているものにする。2人で行けるなら、その業務の当人を必ず入れる。

講座そのものの選び方はAI講座の選び方|無料と有料で差が出る5か所に整理しています。


空白③工程|事例が見せているのは出力までです

AI活用セミナーの事例は、ほとんどが出力が出たところで終わります。「これまで2時間かかっていた下書きが10分で出るようになりました」。話はここで拍手になります。

しかし、その下書きが本当に相手に届くまでには、まだ工程があります。誰が読むのか、誰が直すのか、誰が承認するのか。この後半は事例には映りませんが、自社には丸ごと残っています。

型D・フロー型。1つの書類ができあがるまでの工程を左から右へ並べ、事例が映している範囲を示す。要素=①依頼を受ける②AIに渡して初稿を出す③内容を確認する④承認をもらう⑤相手に出す。①②を囲んで「セミナーの事例が見せている範囲」のラベルを付け、③④⑤を囲んで「自社にそのまま残る範囲」のラベルを付ける。淡青のフィールドに白ボックスを5つ並べ、③確認と④承認の2つだけを青で塗る。結論=事例が見せているのは出力までで、確認と承認は自社に残ります。

事例が見せているのは出力までで、確認と承認は自社に残ります。

使い始めた会社ほど「業務プロセスに組み込めず、定着しない」を挙げます

ここでも、統計に同じ形の逆転が出ます。先ほどと同じ商工中金の調査(同調査 p.10)で、「業務プロセスに組み込めず、定着しない」を課題に挙げた割合は、積極活用層で16.3%(n=1,144)、積極活用層以外で10.0%(n=2,522)でした。

使っていない会社は、この課題をまだ知りません。触り始めて初めて、工程が古いままであることに気づくからです。事例を集めている段階で、この項目まで先回りできないのは自然なことです。

これは、当社が4つの壁の3つ目「業務プロセスの壁」として整理している状態です。初稿は十分な質で出てくるのに、確認と承認が以前のままなので、完成までの日数が変わらない

初稿の速さを完成の速さに変えるには、仕事の流れのほうを組み替えるしかありません。研修の設計側から見た段階の踏み方はAI教育の進め方|社員が使うようになる研修設計の5段階にまとめています。

工程は、AI活用セミナーの中では動かせません

前提と担い手は、参加する側の準備でかなり埋まります。工程だけは違います。確認と承認の順番を変える権限は、会場の中には無いからです。

だからここは、セミナーの成果として期待するものではありません。持ち帰るのは「どの工程を組み替える必要があるか」という宿題であって、組み替えそのものは社内の決定です。

自社の業務を1つ持ち込んで、出力のあとの工程まで一緒に見たい方は初回無料体験講座(無料・30分)を申し込むからお試しいただけます。

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申し込む前に決める1つ|移す先の業務を先に指名する

前提・担い手・工程の3つを、申し込みの前に全部埋める必要はありません。先に決めるのは、持ち帰ったものをどの業務に移すかの1つだけです。

これが決まっていると、当日の聞き方が変わります。事例を「面白い話」として聞くのではなく、自社のその業務に当てはまるかどうかを照らしながら聞けるようになります。同じ持ち時間で持ち帰る量が変わるのは、ここです。

AI活用セミナーに持ち込む題材だけが持つ条件

「営業で使いたい」「バックオフィスを効率化したい」は、まだ指名になっていません。範囲が広すぎて、当日どの話と照らせばよいかが決まらないからです。

指名の粒度は、書類1枚・作業1つまで下ろします。

そのうえで、外部のセミナーに持ち込む題材には条件が1つ付きます。登壇者の話を聞きながら、自社のその作業と並べて違いを言えるかどうかです。社内で題材を選ぶときには要らない条件で、照らす相手が他社の事例だから要る条件です。

確かめること

照らせないときの例

その作業の完成物を、いま頭に浮かべられるか

「営業資料の作成」=人によって別の書類を思い浮かべる

事例を聞きながら、自社との違いを1つ言えるか

自分が触ったことのない作業=違いが言えない

会が終わった翌週に、その作業がもう一度回ってくるか

半期に1度の作業=照合はできても手が動かない

3つとも当てはまる作業が、そのまま当日の照合の軸になります。

出席者に、その業務を毎日やっている人を1人入れます

空白②で書いたとおり、事例を作れるのは業務の当人です。出席の枠が1つしかないなら、推進担当ではなくその人を出すほうが、持ち帰ったものが動きます。

枠が2つ取れるなら、決める人と当人の2人にしてください。判断が要る場面で持ち帰らずに済みます。DAIJOBUの研修も、提供の形は合同研修(複数社・1社1名から)と個社開催(原則10名以上)の2つで、人数の設計はこの考え方に沿っています。

社内に広げる順番そのものは生成AIの社内導入を定着させる方法|配ったのに使われない会社が最初に直す場所に整理しています。


当日に書き留めるもの|事例名ではなく、成り立っていた条件

AI活用セミナー当日のメモが「A社は議事録に使っていた」で終わると、翌週に使えるものが何も残りません。事例の名前は、翌週の行動を指示しないからです。

書き留めるのは、その事例が成り立っていた条件です。3つを埋める形でメモを取ります。

書き留めること

埋まっていなければ聞く

AIに何を教えていたか

「事前にどんな情報を読ませていましたか」

誰が作って、誰が使っているか

「作ったのはどの部署の方ですか」

出力のあと、誰が確認しているか

「確認の工程は、以前と変えましたか」

この3つが埋まると、自社で足りないものが引き算で出ます。 埋まらなかった欄が、そのまま自社の空白です。

AI活用セミナーの質疑で聞く質問は1つで足ります

質疑の時間が短い場合、優先して聞くのは最後の1つです。「出力のあとの確認は、以前と変えましたか」。

理由は、ここが最も省かれるからです。前提と担い手は、話の流れで触れられることが多いのですが、確認と承認の変更は事例の中でほぼ語られません。この1問の答えが、自社で翌週に何を決めればよいかを決めます。

答えが「特に変えていません」なら、その事例は下書きを速くしただけです。それが悪いわけではありませんが、自社で期待する効果もそこまでだと分かります。


セミナーで埋まらない空白

3つの空白のうち、AI活用セミナーの中で埋まるのは前提と担い手の一部までです。工程は会場の外にあります。

  • 埋まるもの:何ができるかの全体像/自社の業務に当てはまるかの見当/AIに何を教えておけばよいかの見本/同じ業務を持つ他社が何で困ったか
  • 埋まらないもの:自社のデータをどこまで入れてよいかの線引き/確認と承認の順番の変更/出したものの責任を誰が持つかの決定

下の3つは、どれも会社として決めるもので、学ぶ量とは関係がありません。AIに詳しくなっても決まらず、決めた人がAIに詳しい必要もありません。

当社も、この線引きを自社サービスの限界として先に置いています。研修の中で扱えるのは前提と担い手までで、工程の組み替えはお客様の会社の決定です。だから受講のあとも伴走する形にしています。

外部のAI活用セミナーを使う場合も、ここは社内で持つ範囲だと最初から見ておくほうが、期待のずれが出ません。

社内で学びを続ける仕組みのほうから設計したい場合はAIラーニングとは|社内で回す仕組みを3層で設計するをご覧ください。


AI活用セミナーに関するよくある質問

Q. 無料のAI活用セミナーでも、事例は持ち帰れますか

A. 持ち帰れます。 事例そのものに有料と無料の差はあまり出ません。差が出るのは、その事例が成り立っていた条件を質問できるかどうかです。

質疑の時間があるか、終わったあとに個別に聞ける場があるかを、募集ページで先に確認してください。

Q. 自社と業種が違う事例は、参考になりませんか

A. 業種より、書類の形が近いかを見てください。 月次の報告書や問い合わせの一次返信は、業種が違ってもやっていることがほぼ同じです。逆に同業でも、扱う書類が違えば移せません。

Q. 1人で参加しても意味がありますか

A. 移す先の業務を自分が毎日やっているなら、1人で十分です。 そうでない場合は、当日のメモを渡す相手を先に決めてから参加してください。渡す相手が決まっていないと、持ち帰ったものは推進担当の手元で止まります。

Q. 持ち帰った事例を、いつまでに試せばいいですか

A. 翌週です。 期間を空けるほど、当日の文脈が抜け落ちます。完成度の高い試行である必要はありません。

DAIJOBUが研修の成果を見るときも、次の回までのあいだに受講者が自分から手を動かしたかを見ています。

Q. 社内にAIに詳しい人がいません。それでも移せますか

A. 詳しい人がいないこと自体は、止める理由になりません。 必要なのは技術に詳しい人ではなく、その業務を毎日やっている人です。分からない語はAI自身にかみ砕いてもらえます。

当社のバックオフィス担当も、周りで使っている人の解説とこの方法を併せて回り始めました。

Q. AI活用セミナーの費用はどのくらいかかりますか

A. 形式・人数・開催方法で変わるため、記事では金額を書いていません。法人研修の費用の決まり方と、公的支援が使える条件はClaude Code研修の費用相場|料金の決まり方・助成金・費用対効果までに整理しています。


AI活用セミナーの3つの空白|総括表

論点

押さえるところ

需要の実態

求められる公的支援は費用の助成が1位、事例の情報提供が2位。事例への需要には根拠がある

事例の性質

うまくいった後ろから語られるため、手前の作業が構造的に落ちる

空白①前提

事例のAIには社内の判断基準と用語が渡してある。自社のAIは何も知らない

前提の見分け方

出力から会社名と商品名を消して他社に渡せるなら、前提が空いている

前提の埋め方

毎回チャットに書き足さない。AIが読める共有の置き場にまとめる

空白②担い手

事例を作るのは業務の当人。出席するのは推進担当という取り違えが起きやすい

担い手の統計

「一部部署や職員に知識・ノウハウが偏る」は積極活用層24.7%・それ以外10.2%。使い始めてから見える課題

席の作り方

階層でなく業務の近さで分ける。決める人と当人が同じ題材を見る

空白③工程

事例が映すのは出力まで。確認と承認は自社に残る

工程の統計

「業務プロセスに組み込めず、定着しない」は積極活用層16.3%・それ以外10.0%

申込前に決める1つ

移す先の業務を、書類1枚・作業1つの粒度で指名する

出席者

その業務を毎日やっている人を1人入れる。枠が2つなら決める人と当人

当日のメモ

事例名でなく、教えていたもの・作った人・確認の工程の3つを埋める

埋まらないもの

データの線引き・確認と承認の変更・責任の所在。学ぶ量では決まらない


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まとめ|AI活用セミナーは、持ち帰った事例の数では進みません

  • 事例は、うまくいった後ろから語られる。結果は届くが、その結果が成り立っていた手前の作業は落ちる
  • 落ちるのは3つ。AIに渡してあった前提、実際に回している担い手、出力のあとに残る工程
  • 前提が空くと一般論しか返らない。出力から社名を消して他社に渡せるなら、それが合図
  • 担い手を取り違えると、推進担当の手元で止まる。事例を作れるのは、その業務を毎日やっている人
  • 工程は会場の外にある。確認と承認を変える権限は、セミナーの中には無い
  • 申し込む前に決めるのは1つだけ。移す先の業務を、書類1枚・作業1つの粒度で指名する

最後に、次のAI活用セミナーに申し込む前の一手を1つだけ挙げます。移す先の業務を1つ書き出して、その業務を毎日やっている人の名前を横に書いてください。

2行で終わります。この2行があるだけで、当日に確かめる質問が自分で立ち、聞いた話を照らす相手が決まります。書かずに参加すると、持ち帰るのは事例の名前だけになります。

自社の業務を1つ持ち込んだときにどこまで動くかを確かめたい方は、初回無料体験講座(無料・30分)を申し込むからご利用ください。

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出典・注記

  • 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」 https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf (2026年9月16日参照)。調査期間=令和7年11月17日〜12月12日、Webアンケート、調査対象=全国の中小企業10,000社。本記事で引用した「導入事例などの情報提供」70.5%(n=1,594)・「導入費用などの助成」77.9%(n=1,628)は、いずれも図表9「導入を推進するために必要な公的支援」で「必要である」と答えた割合です。同じ調査でも設問ごとに基数が異なります
  • 商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」 https://www.shokochukin.co.jp/report/data/assets/pdf/futai202603.pdf (2026年3月31日公表・2026年9月16日参照)。本記事で引用した「一部部署や職員に知識・ノウハウが偏る」24.7%/10.2%、「業務プロセスに組み込めず、定着しない」16.3%/10.0%は、同調査 p.10 が「生成AI積極活用層(n=1,144)」と「積極活用層以外(n=2,522)」の2群に分けて集計した図の値です(複数回答)。有効回答3,892社を母数とする値ではありません
  • 「前提・担い手・工程の3つの空白」は、当社が組織展開の課題として整理している「展開の4つの壁」から3つを取り出して並べ替えたものであり、業界の標準的な分類や公的機関の定義ではありません。「当日に書き留める3つ」も同様に当社の整理です
  • 会社の方針・用語・判断基準をAIが参照できる共有の置き場にまとめる考え方、個社開催で業務内容の近い人を同じグループにしていること、初稿の質が上がっても確認と承認が以前のままだと完成までの日数が変わらないこと、工程の組み替えは研修の中だけでは越えられないため受講のあとも伴走していること、成果を次の回までのあいだに受講者が自分から動かした回数で見ていることは、いずれも当社の自社情報です。個々の企業名・受講者名・受講者数の実数は記載していません
  • 提供形式(合同研修は複数社・1社1名から、個社開催は原則10名以上)は当社の現行メニューです。受講料・公的支援の適用可否は条件により変わるため、本記事では扱っていません
  • 本記事は、AI活用セミナーへの参加によって成果が出ることを保証するものではありません

この記事について

DAIJOBUは、ソフトウェアテスト・品質保証と脆弱性診断を本業としながら、営業・採用・バックオフィスまで含めて20名以上が毎日Claude Codeを使っている会社です。法人研修は、受講者が全員非エンジニア・Claude Code未経験という前提で組んでいます。本記事は、教える側として実際に見てきた「持ち帰った事例が止まる場所」を3つに分け、公的調査で確認できる数値と、当社の整理を分けて書いたものです。当社の整理である箇所には、その旨を明示しています。

著者

DAIJOBU株式会社 Claude Code法人研修部 コンテンツ担当 佐藤 雅俊

編集責任者

DAIJOBU株式会社 Claude Code法人研修 事業責任者 石井 雄大

監修

DAIJOBU株式会社 代表取締役 山中 裕貴

公開日

2026年9月25日

最終更新日

2026年9月25日